おわらの夜

 日が落ちてぼんぼりに灯が入る頃になると道の両側は観光客でいっぱいになります。それぞれみどころを知っていてか
よい場所で連の来るのを待ち構えています。
諏訪町、上新町、鏡町、東新町、西新町、東町、西町、今町、下新町、天満町、それぞれの町が連を組んで、
歌いい踊り楽の音をひびかせ、
ゆっくりと進みます。先ずは男踊りから、続いて女踊り、胡弓、三味線、太鼓など、

でも、やっぱり時代を感じますネ。編み笠の下は茶髪、そして交わす会話は現代っ子そのままでした。
でも、この祭りのために毎日手足の上げ下げの角度まで厳しく練習を重ねたのだそうです。

その努力に敬意を表してまつりを充分堪能させていただきました。

 私たちは充分風の盆を楽しんで夜中の、三時過ぎに床に就きました。
曲線的な女踊り、力強いおとこおどり、まるで体操選手のようなきびきびとした動きの中にえもいわれぬ味わいがあります。
でも25歳以下の未婚の男女で踊られるそれとは、一味も二味もちがう連がある事を後で知りました。

浅い眠りの中で遠くに聞こえる拍手の音、ああやっと踊りが全部終わったのね、と思ったそのしばらくあとに、
遠くから聞こえてくる胡弓の音、
地を這うように近づいてくるその音がだんだんこちらにくるではありませんか!
時刻は午前4時過ぎです。

誰かがそーっと床を抜け出して外へ出て行きました。それに連れて私も・・・パジャマに上着をひっかけて。
でも私はあちらに躓きコチラにひっかかり、ガタピシと音をたててやっと玄関から外へ。
あ、メガネを忘れた!と叉家の中へ。目を覚ましたMさんも私の後から出てきました。

胡弓の音と歌い声がだんだん近づいてきて私たちの目の前までやって来ました。
 「もういいわ、私は寝るわ」といっていたI子さんまでが何時の間にか起き出て一緒になってみています。

その連はほんの少人数のぐるーぷでしたが、多分25歳以上のOB,OGなのでしょう、
当然先ほどまでの若い人とは、違う大人の雰囲気が自然に漂っています。
ゆっくりゆっくり歌うというよりは語るような、おどりながらと言うよりは舞うような足取りは、人の目など意識せず、
自身の世界に浸りきっている感じが滲み出ています
年毎に多くなる観光客のための時間の最後の最後の瞬間を自分たちのための祭りとしてしみじみと
味わっているような感じを私は受けました。

私はしっとりとした味わいを残して遠ざかって行くその後姿に自分の日常とはあまりにもかけ離れたその世界に驚きと不思議の感覚でじっとみつめていました。
でも、この祭りが終われば、彼女、彼らも普通の生活者として忙しい毎日が待っているのでしょう。

「ほんとにいいのは二時からじゃ」と、言っていた土地の古老の言葉をこの時思い出していました。

きっと叉来年もでかける事でしょう
切り絵 記念切手と団扇

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